※本記事は、伺ったお話をもとに、個人や住所が特定されないよう、内容を再構成したものです。

「兄の実印さえあれば、とっくに終わっていたと思うんです」

ご依頼人は、そう話していました。

静岡県浜松市にあるご実家。ご両親が亡くなり、相続人はご依頼人と、10年以上前からアメリカに住んでいるお兄様の2人でした。

ご依頼人は、遺産分割協議書を用意し、実家を売却する方向で話もまとまっていました。あとは、書類に実印を押して、印鑑証明書を添付するだけ、そのはずでした。

ところが、お兄様から返ってきたのは、こんな言葉でした。

「こっちに来てから、もう日本の印鑑登録、切れてると思う」

■実印がないことは、珍しいことではありません

海外に住んでいる方は、日本の住民登録を抜いているケースがほとんどです。住民登録がなければ、印鑑登録もできません。つまり、実印も印鑑証明書も、そもそも「ない」状態になります。

これは、特別な事情ではありません。海外に長く住む相続人がいる場合、ごく普通に起こることです。

ただ、ご家族だけでこれに直面すると、どうすればいいのか分からないという状態で、手続きが止まってしまうことが少なくありません。

■印鑑証明書の代わりに「サイン証明書」、住民票の代わりに「在留証明書」

このようなケースでは、印鑑証明書の代わりに「署名証明書(サイン証明書)」、住民票の代わりに「在留証明書」という書類を使います。

どちらも、お兄様が住んでいる国の日本大使館・領事館(在外公館)で取得する書類です。

サイン証明書は、遺産分割協議書に、領事の面前で本人が署名することで発行されます。これが、日本の印鑑証明書と同じ役割を果たします。

在留証明書は、現地にいつから住んでいるかを証明する書類で、住民票の代わりとして使われます。

法務局も、この方法での相続登記を認めています。手続きとしては、きちんと道筋があるものです。

■それでも、時間と手間はかかります

書類の面では解決策があっても、実務上の負担が消えるわけではありません。

在外公館への訪問は、予約制のところも多く、混雑状況によっては時間がかかります。取得した書類は原本が必要なため、国際郵便でのやり取りが発生します。署名してほしい書類は、一度PDFで送って内容を確認してもらい、現地で印刷して領事の前で署名してもらう、といった往復も必要になります。

国内の相続人同士なら、直接会って即日で終わる作業が、海外とのやり取りでは、数週間単位の時間がかかることも珍しくありません。

■書類の問題だけでは、ありません

私がこういったご相談を受けたとしたら、書類の手続きだけを案内して終わりにはしません。

ご依頼人は、こうも話していました。

「兄に任せきりにするのも悪い気がするし、かといって、こっちだけで全部決めるのも違う気がして」

時差があり、気軽に電話で済ませられない。実家の状態を直接見てもらうこともできない。そんな状況で、相談しながら進めているという実感を、お互いが持てるようにすることも、大切なことだと思っています。

■私たちができること

実家終活代行では、こうしたケースでは、次のような形で進行を整理します。

・現地(実家)の状況を、写真や動画で記録し、海外の相続人にも共有できる形にする
・診断書など、判断材料になる資料を、オンラインで確認できるようにする
・海外在住者の相続手続きに詳しい司法書士と連携し、サイン証明書・在留証明書に関する案内を整理する
・国内側の相続人が、現地に何度も足を運ばなくて済むよう、必要な手続きの窓口を一本化する

海外にいるお兄様とご依頼人、双方が置いていかれていると感じないよう、情報をできるだけ揃えて共有することを心がけています。

■まとめ

相続人の誰かが海外にいるというだけで、「うちは特殊なケースだから」と、相談を先延ばしにしてしまう方もいます。しかし、書類面では確立された手続きがありますし、実務上の負担も、窓口を整理することで軽くできます。

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※上記は、スタッフが伺ったお話をもとに再構成した内容であり、個別の事例を特定できる情報は含んでおりません。相続手続きに関する内容は一般的な情報であり、提出先・国によって必要書類や手続きが異なる場合があります。具体的な手続きについては、司法書士・在外公館等にご確認ください。

参考URL
海外在住者の相続手続き|在外邦人の戸籍・印鑑証明・署名証明を解説
https://office-tree.jp/blog/inheritance/overseas-inheritance-procedure/
サイン証明書・在留証明書の役割と、取得にかかる手続きの流れについて参照しています。
相続人が海外在住の場合の名義変更 在留証明書・署名証明書(サイン証明書)
https://www.meigi-henkou.jp/16136191354783
サイン証明書の2つの形式、法務局における取り扱いについて参照しています。