農家の実家を「売る・壊す」だけで終わらせない

「この家、もう売ろうと思っています」

そう聞けば、実家終活の方向は決まったように思えます。

でも、実際に現地へ行ってみると、話はそれほど単純ではありません。

今回のようなケースで悩ましいのが、家そのものよりも、むしろ家の外にあるものです。

茨城県牛久市にある、農家だったご実家。

依頼人の祖父母はもともと農業を営んでいましたが、祖父が病気になったことをきっかけに農業をやめ、農地の一部は売却しました。

残った家には、大きな庭があります。

庭木があり、竹林があり、かつて祖母が手入れしていた畑もあります。敷地の一角には、小さな祠も残っています。

依頼人の祖母は、庭が好きな人でした。

体が元気なころは、広い庭の手入れをし、野菜を育て、竹林の様子も気にかけていました。

やがて体調を崩して介護施設へ移ることになっても、庭のことを心配していたそうです。

分析して、依頼人の家族にこう頼んでいました。

「祠には、ちゃんと水をあげてね」

ところが、施設の費用もかかります。

家族の中で実際に動けるのは、東京で仕事をしている依頼者の一人だけ。

牛久なら東京から行けない距離ではありません。しかし、仕事をしながら広い庭の草木を管理し、竹林を手入れし、家の中を整理する。毎週のように通うのは現実的ではありません。

そこで、「売却を考えよう」という話になりました。

ところが、ここで新たな問題が出てきます。

庭をどうするのか。

木を全部切るのか。竹林もなくすのか。家を壊して更地にするのか。それとも、この大きな庭を残した状態で売るのか。

そして、祠はどうするのか。

祖母は売却そのものには納得している。けれど、祖母が最後まで大切にしていた庭まで、すべてなくしてしまっていいのだろうか。

私は、こういうところから実家終活を考えます。

最初から「売るための準備」はしません

私がこの相談を受けたとしたら、まず現地を見ます。

家の状態だけを見るのではありません。土地、建物、庭、竹林、物置、残された荷物、そして祠。敷地全体を見て、「この家には何が残っているのか」を整理します。

そのうえで、所有関係や土地の状況を確認し、必要な調査を進めます。

例えば、牛久市には、空き家や空き地の売却・賃貸などにつなげる「空家・空地バンク」の制度があります。

この家が登録の対象になるのか、建物や土地の状態がどのように評価されるのか。まずは制度の内容と登録条件を確認します。

参考:牛久市「空家・空地バンク」

竹林や樹木についても、単純に「全部切ればいい」とは考えません。

土地の地目や区域などによっては、伐採にあたって確認が必要になる場合があります。

牛久市の森林関係の案内なども確認し、必要な手続きがないかを調べます。

参考:牛久市「森林」に関する案内

「残すか、切るか」ではなく、「この土地にとって、どの状態がよいのか」

そこから考えます。

「大きな庭」は、負担であると同時に価値にもなり得る

実家終活では、広い庭を見ると「手入れが大変ですね」と言われがちです。

もちろん、それは事実。

庭木は伸びます。竹も増えます。草も生えます。誰も管理しなければ、時間とともに負担は大きくなります。

ただ、私はそこで話を終わらせません。

この庭を必要とする人はいないのか。古い家と広い敷地を探している人はいないのか。

庭を残したい人、家庭菜園をしたい人、地方で暮らしたい人にとっては、この土地の広さそのものが魅力になる可能性があります。

売却のために先にすべてを撤去するのではなく、撤去する場合にいくらかかるのか、残した場合にどんな売り方が考えられるのか。両方を見比べます。

私は、必要であれば不動産会社や解体業者、庭木・竹林の整理を行う業者などにも話を聞き、費用や条件を確認します。

依頼者の方には、その情報を整理してお伝えします。

最終的にどの道を選ぶかを決めるのは、私ではありません。

祠については、さらに慎重に考えます

今回のケースで、私が特に気になるのが祠です。

小さな祠だからといって、単純に「撤去すればいい」とは考えません。

まず、それがどういうものなのか。誰が管理してきたのか。土地との関係はどうなっているのか。地域との関わりはないのか。

文化財などについて確認が必要な場所ではないか、という点も含め、必要に応じて牛久市の文化財担当窓口などに確認します。

参考:牛久市「文化財」に関する案内

もし撤去や移動を検討するのであれば、家族だけで判断せず、祠の由来や地域との関係を確認し、必要に応じて地元の神社などにも相談します。

そうして、祖母が大切にしてきたものを、ただ「邪魔なもの」として処理しないことが大切だと思っています。

「売るから全部なくす」ではなく、「売るとしても、祖母が残したものをどう整理していくか」を考える。

これも実家終活の仕事の一つです。

私が依頼を受けたら、家族と一緒に整理します

実家終活の相談を受けたとき、私は「こうしましょう」と最初から結論を出すことはしません。

まず現地を見ます。

そして、家族からこれまでの経緯を聞きます。

  • 「祖母は庭を大切にしていた」
  • 「祠には水をあげてほしいと言われていた」
  • 「東京から通うのは難しい」
  • 「介護施設の費用もある」……。

こうした話は、単なる不動産情報ではありません。その家をどうするかを決めるうえで、大切な情報です。

そのうえで、次のような選択肢を整理します。

  • 庭や竹林を残したまま売却できる可能性
  • 庭木や竹林を整理してから売却する場合の費用
  • 建物を残す場合と解体する場合の違い
  • 庭を残すことに価値を感じる買い手が考えられるか
  • 祠について確認すべきこと
  • 今すぐ売らず、一定期間管理する場合の負担

また、相続した土地については、一定の要件を満たせば国に引き渡す「相続土地国庫帰属制度」という制度もあります。

ただし、建物がある土地はそのままでは対象にならないなど、要件や審査があります。この家のように建物や庭、竹林がある場合、すぐに利用できる制度とは限りません。

参考:法務省「相続土地国庫帰属制度」

制度を知ることと、実際に利用できることは別です。だからこそ、条件を確認し、現実的な選択肢を見極める必要があります。

必要なところは専門業者や行政にも確認します。そして、家族が「これなら判断できる」と思える状態まで、情報を整理します。

実家終活で大切なのは、早く決めることではありません。

依頼人ご家族が納得して決められる材料をそろえることだと私は考えています。

「遠くないから何とかなる」が、一番難しい

東京から牛久。距離だけを考えれば、「たまに帰ればいい」と思うかもしれません。

でも、実家の管理は一度行けば終わりではありません。

庭を見て、竹を見て、雨漏りを確認して、郵便物を整理して、草が伸びればまた行く。

高齢になった親が大切にしていた庭なら、なおさら「全部切ってしまえばいい」と簡単には言えません。

だからこそ、私は「売る・壊す」の前に、一度立ち止まります。

この家には何が残っているのか。何を残す必要があるのか。何を整理すれば、家族の負担が減るのか。そして、この土地を次の人にどう渡すのがいいのか。

それを一緒に考えます。

大きな庭のある実家は、管理する側にとっては大きな負担になることがあります。一方で、その庭を含めて「この家が好きだ」と思う人が現れる可能性もあります。

だから、最初から答えを一つに決める必要はありません。

「祖母が大切にしていた庭があるんですが、もう私たちでは管理できません。どうしたらいいでしょう」

そんな相談からでいいのです。

実家終活は、家を売ることだけが目的ではありません。

その家に残されたものと、家族の気持ちを一度整理して、次の道筋をつくること。

私は、そのための調査や資料づくり、専門業者との調整などを、依頼者の方と一緒に進めていきます。

何も決まっていない段階で構いません。

「この庭、どうしたらいいんでしょう」

そこから始める実家終活があってもいいと思っています。


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