「売るのは、まだ早いんじゃないか。リフォームして貸せば、家賃が入るだろう」

「いや、いっそのこと国に引き取ってもらえばいい」

「もっといい方法があるはずだ。お前は調べ方が足りないんだよ」

依頼者は、鎌倉にある父の家について、こんなことを言われてしまったそうです。

売却するなら、いくらで売れるのか。貸すなら、どのくらいの改修費が必要なのか。国に引き取ってもらうという方法は、本当にあるのか……?

調べることは山ほどあります。しかし、話を進めようとするたびに、お父様の希望が変わる。説明しても納得してもらえず、気がつけば家の話をすること自体が苦痛になっている。

今回取り上げるのは、そんな親子関係に苦悩する依頼者の、鎌倉の実家終活の事例です。

老後を楽しむはずだった、鎌倉の家

依頼者の父がその家を購入したのは、老後をゆっくり楽しむためでした。

鎌倉という土地への憧れもあったのでしょう。仕事を離れたら、好きな場所で暮らす。そんな将来を思い描いていたのかもしれません。

ところが、思いどおりにはいきませんでした。

病気を患い、十分にその暮らしを楽しむ前に高齢者施設へ入居。家は空き家になりました。

依頼者とその父は、長いあいだ疎遠でした。実家の処分という現実的な問題が生じたことで、久しぶりに連絡を取り合うようになったのです。

しかし、再び話し始めたからといって、すぐに意見が一致するわけではありません。

父は「売る」と言ったかと思えば、「改修して賃貸に出したい」と言う。さらに「国が買い取ってくれる方法があるらしい」と、新しい情報を持ち出すこともあります。

一方、依頼者には仕事や家庭があります。鎌倉まで何度も通い、建物の管理を続けるのは簡単ではありません。

空き家になってから時間がたち、建物の劣化も気になり始めています。

「父の気持ちはわかる。でも、このまま何年も決められないのは困る」

依頼者の悩みは、単に家を売るかどうかという問題ではありません。

お父様の思いを尊重しながら、現実に実行できる方法をどうやって見つけるか。

そこが、この実家終活の出発点です。

まず、鎌倉市の相談窓口や制度を調べる

実家終活の相談を受けたとき、私たちが最初に考えるのは、いきなり不動産会社に売却を依頼することではありません。

まずは、家の状態と所有者の意向を整理し、どのような選択肢が考えられるかを調べます。

今回のようなケースで、最初に確認したいのが鎌倉市の空き家対策です。

鎌倉市の公式サイトでは、空き家対策に関する情報を確認できます。

鎌倉市「空き家対策」

ここで確認したいのは、単に補助金があるかどうかではありません。

  • 空き家の売却や賃貸について相談できる窓口はあるか
  • 管理や利活用について、専門家につないでもらえるか
  • 所有者本人だけでなく、親族からも相談できるか
  • 現時点で利用できる支援制度はあるか

今回のように、所有者本人の希望が定まっていない場合、最初から「売る」「貸す」と決める必要はありません。

自治体の相談窓口で確認できることと、個別の不動産調査が必要なことを分けておく。それだけでも、次に何をすればよいかが見えやすくなります。

なお、相談窓口の名称、受付方法、対象者、費用などは変更される可能性があります。実際に利用する際は、公式ページや担当部署で最新の内容を確認する必要があります。

鎌倉の家は、場所によって条件が大きく違う

次に必要なのが、物件そのものの調査です。

「鎌倉の家」と聞くと、古都の風情があり、人気も高く、売却にも賃貸にも向いていそうだと思う方がいるかもしれません。

しかし、鎌倉市内の住宅であっても、立地や敷地条件によって事情は大きく異なります。

たとえば、確認したいのは次のような項目です。

〇風致地区などの規制

鎌倉市には、自然や景観を守るための規制が関係する地域があります。建物の建て替えや改修を考える場合、敷地の条件や指定内容によって、建築できる規模や工事の進め方に影響が出ることがあります。

〇道路との接し方

敷地が建築基準法上の道路にどのように接しているかは、建て替えや売却を考えるうえで重要です。

古い住宅地や細い道、階段状の通路などでは、一般的な住宅と同じように建て替えられるとは限りません。

〇斜面地や擁壁、土砂災害のリスク

鎌倉には、丘陵地や斜面地にある住宅もあります。敷地内の擁壁や高低差、土砂災害に関する指定などは、安全性だけでなく、改修費用や買い手の判断にも関わります。

〇景観や歴史的環境に関する条件

地域によっては、建物の外観や工事について確認が必要な場合があります。

こうした条件は、鎌倉市内の住宅すべてに一律に当てはまるものではありません。対象物件の所在地をもとに、一つずつ確認する必要があります。

たとえば、売却査定で思ったほどの価格が出なかったとき。単に「不動産会社が安く見積もった」と考えるのではなく、接道や建築上の制限、建物の状態などに理由がないかを調べます。

反対に、制限があるからといって、必ずしも売却や活用ができないわけでもありません。

大切なのは、価格だけを見るのではなく、その価格になる理由と、ほかに実行可能な方法があるかを確認することです。

「国が買い取ってくれる」は、本当なのか

今回のお父様が口にしている「国が買い取ってくれる」という話も、きちんと調べておきたい項目です。

インターネットで「土地を国に引き取ってもらう」といった情報を見つけると、自分の家も対象になるのではないかと思うかもしれません。

ここで確認したいのが、法務省の相続土地国庫帰属制度です。

法務省「相続土地国庫帰属制度」

この制度は、相続などによって土地を取得した人が、一定の要件を満たした場合に、その土地を国庫に帰属させることを申請できる仕組みです。

土地を国が買い取って代金を支払う制度ではありません。申請者側が審査手数料や負担金を支払う仕組みであり、土地であれば何でも引き取ってもらえるわけでもありません。

また、今回のケースでは、お父様が存命で、本人が所有する土地と建物をどうするかという段階です。

そのため、相続土地国庫帰属制度を、現在の家をそのまま国に引き取ってもらう方法として考えることはできません。

この点は、お父様に説明するときにも重要です。

ただ「そんな制度はありません」と否定するのではなく、どのような制度があり、誰が、どんな条件で利用できるのかを確認する。

そのうえで、今回の家には当てはまらないことを、根拠とともに伝えるのです。

制度の名前だけが独り歩きしている場合、正確な情報を一緒に確認することが、話し合いの第一歩になることがあります。

売却するなら、税金も含めて考える

不動産を売却する場合、売却価格だけで判断することもできません。

売却にかかる費用や税金を差し引いたあと、実際にいくら手元に残るのかを考える必要があります。

今回の調査では、国の制度として「低未利用土地等の譲渡に係る長期譲渡所得の特別控除」も確認対象になりました。

一定の要件を満たす低未利用土地等を売却した場合、譲渡所得から最高100万円を控除できる制度です。

ただし、売却価格や土地の利用状況、譲渡する相手、自治体による確認など、複数の条件があります。

国税庁「土地や建物を売ったとき」

今回の物件で利用できるかどうかは、土地の条件や売却方法を確認しなければ判断できません。

また、相続した空き家の売却に関する特別控除もありますが、これは相続などを前提とする制度です。お父様が存命の今、本人が売却するケースにそのまま適用できるものではありません。

税制については、制度名だけで判断せず、税理士や税務署などに個別の条件を確認することが大切です。

「貸せば収入になる」も、数字で考えてみる

お父様が「売るよりも、リフォームして貸したい」と考えているなら、その可能性も最初から否定する必要はありません。

ただし、賃貸に出す場合には、改修費用だけでなく、入居者募集、管理、修繕、空室期間なども考える必要があります。

たとえば、数百万円をかけて改修したとして、家賃収入でその費用を回収するまでに何年かかるのか。

その間、固定資産税や保険料、建物の維持費はどのくらい必要なのか。

施設に入居しているお父様が、賃貸経営に伴う判断や支出をどこまで担えるのか。

こうした点を整理しなければ、「家賃が入る」という期待だけで判断することになってしまいます。

また、鎌倉という地域性だけで賃貸需要があると決めつけることもできません。駅からの距離、交通手段、建物の状態、間取り、周辺環境などを踏まえ、実際に貸せる条件と想定賃料を調べる必要があります。

ここでも、売却と賃貸のどちらが正解かを先に決めるのではなく、それぞれの方法で、費用・収入・手間・リスクがどう変わるかを並べてみることが重要です。

家の問題だけではない。お父様の意思をどう確認するか

今回のケースで、もう一つ見落とせないのが、お父様自身の意思決定です。

希望がたびたび変わると、家族は「話が通じない」「もう自分たちで決めたい」と感じてしまうかもしれません。

しかし、考えが変わることだけで、判断能力が低下していると決めつけることはできません。

家を手放したくない気持ち、老後の生活費への不安、購入時の思い入れ、子どもに主導権を握られたくない気持ち。さまざまな事情が関係している可能性があります。

一方で、契約や財産管理に関する判断が難しくなっている様子があれば、専門家への相談も必要になります。

成年後見制度や任意後見制度、家族信託などは、それぞれ目的や利用条件が異なります。どれも、子どもが親の不動産を自由に処分できるようにするための制度ではありません。

成年後見制度については、裁判所の公式情報を確認できます。

裁判所「成年後見制度」

不動産の売却や契約を進める場合には、お父様本人の意思と権利を尊重することが前提です。

判断能力について心配がある場合も、家族だけで結論を出さず、医療・福祉・法律の専門家に相談しながら進める必要があります。

私が行うのは、「売るべきです」と説得することではありません

こうしたケースで、実家終活代行ができることは何でしょうか。

私たちは、不動産会社のように売却価格を提示するだけでも、法律の専門家のように法的判断を行うことでもありません。

まずは、お父様とお子様、それぞれの話を聞きます。

お父様は、なぜ売却に踏み切れないのか。賃貸にしたいのは、家を残したいからなのか、それとも収入への期待があるからなのか。国に引き取ってもらいたいという話は、どこで知った情報なのか。

お子様は、どこまで管理を続けられるのか。何が一番負担になっているのか。お父様の希望をどこまで実現したいと考えているのか。

そのうえで、必要な調査を進めます。

  • 物件の現況、接道、建築上の条件を確認する
  • 売却査定を取り、価格の根拠を整理する
  • 賃貸に出す場合の改修費や想定賃料を調べる
  • 解体する場合の費用と、更地にした後の売却可能性を確認する
  • 利用できる制度や税制があるか、公式情報や専門家に確認する
  • 管理を続ける場合の費用と、放置した場合のリスクを整理する

そして、それぞれの選択肢を比較できる資料にまとめます。

調べた結果、賃貸が難しいとわかるかもしれません。反対に、条件を整えれば活用できる可能性が見えてくるかもしれません。

売却査定が購入時の価格を大きく下回ることもあるでしょう。その場合も、価格だけを伝えるのではなく、なぜその評価になるのか、売却以外の方法はあるのかを一緒に考えます。

もちろん、すべてを私たちだけで判断するわけではありません。不動産、法律、税務、建築など、専門的な判断が必要な場面では、それぞれの専門家につなぎます。

私たちが担うのは、何を、どの順番で、誰に相談し、どのような材料をそろえて決めていくかを整理することです。

「今すぐ決める」よりも、「決められる状態をつくる」

実家終活では、家族の意見が最初から一致していることのほうが、むしろ少ないのかもしれません。

親には親の思いがあり、子どもには子どもの生活があります。

長く疎遠だった親子であれば、家の話をすること自体が、過去のわだかまりを呼び起こすこともあるでしょう。

そんなとき、家族だけで何とかしようとすると、話し合いが止まってしまうことがあります。

第三者が間に入り、事実を調べ、選択肢を整理し、必要な専門家につなぐ。そうすることで、親子が感情だけでぶつかるのではなく、具体的な材料をもとに話せるようになることがあります。

鎌倉の家を売るのか、貸すのか、残すのか。

その答えは、家の条件や費用、お父様の希望によって変わります。最初から一つに決める必要はありません。

ただ、建物の劣化や管理の負担は、時間とともに変化していきます。何もしない場合にも、固定資産税や維持費、近隣への影響などが生じる可能性があります。

だからこそ、結論を急がせるのではなく、先送りする場合も含めて、現実に何が起こるのかを確認しておくことが大切です。

実家終活は、家を手放すことだけではありません。

家族だけでは進められなくなった状況を整理し、本人の意思を尊重しながら、次の道筋をつくることです。

「父が何を言っているのか、もう自分では整理できない」

「売るのか貸すのか、何から調べればいいのかわからない」

そんな段階でも、相談を始めることはできます。

実家じまいについて、もっと詳しく知りたい方へ

実家じまいには、片付け、相続、売却、解体、税金など、さまざまな問題が関わります。特に、田舎の売れない実家や、遠方にある空き家は、何から手をつければよいのか分からず、先延ばしになりがちです。

 実家じまいの進め方や費用について、以下の2つの完全ガイドで詳しく解説しています。

【実家じまい完全ガイド】
実家の片付けから売却・処分まで、具体的な手順と選択肢をまとめました。  
https://zikkazimai.jp/column/zikkazimai-guide/

【実家じまいのお金と税金・完全ガイド】
相続、売却、解体にかかる費用や、知っておきたい税金の制度・特例を解説しています。  
https://zikkazimai.jp/column/zikkazimai-money-tax/

売れない実家、処分できない土地、片付かない空き家でお困りの方へ。
実家終活代行では、物件の状況を調べ、売却・譲渡・片付けなどの現実的な選択肢を整理する「無料診断」を行っています。

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参照・確認先

以下は、本稿の制度・法令・相談先を確認するための参照先です。自治体の制度や受付状況、補助額、利用条件は変更されることがあるため、実際に相談・申請する際には最新情報をご確認ください。

鎌倉市

  • 鎌倉市「空き家対策」:空き家対策に関する市の情報。相談窓口の名称や対象、受付方法は、利用前に確認が必要です。
  • 鎌倉市公式ウェブサイト:建築、都市計画、景観、空き家対策など、物件の所在地に応じた制度・規制の確認先。

国の制度・税制

神奈川県

※本稿は、提示された事例と調査報告書をもとに、実家終活の進め方を具体化したものです。制度の適用可否や物件の法的・建築的条件を個別に確認した調査報告ではありません。鎌倉市の相談窓口の連絡先、補助金額、風致地区等の指定、個別物件の接道・災害リスクなどは、掲載前に公式情報および関係窓口で確認することをおすすめします。