「空き家にしておくなんて、コスパが悪いですよね」
山形市で実家終活の相談に来た50代の男性は、そう言いました。
投資をしていることもあり、依頼人は物事を「コスト」と「リターン」で考えるのが得意です。
父親はすでに亡くなり、母親が山形市内の一戸建てで一人暮らしをしています。
母親はまだ元気です。買い物にも行けるし、車の運転もしています。
ただ、依頼人には気になることがありました。
「いつまで今の生活が続けられるんだろう」
山形の冬を考えれば、雪の降る中での運転や、家の管理も気になります。
そこで依頼人は、母親を山形駅や七日町周辺など、生活に便利な場所のマンションへ引っ越してもらい、引っ越しと同時に実家も売却しようと考えました。
「母も便利になる。空き家も残らない。家の維持費もなくなる。売れるうちに売ったほうがいい。どう考えても、そのほうが合理的ですよね」
確かに、その考え方には一理あります。
では、実家終活は「合理的なほうを、できるだけ早く決める」ことなのでしょうか。
「空き家にするとコスパが悪い」は、間違っていない
山形市では、中心市街地の活性化や、駅周辺・七日町などへの都市機能や居住の集約を進める取り組みがあります。
車に頼らなくても買い物や通院などがしやすい場所へ住み替えることは、高齢になった親にとって一つの選択肢です。
一方、郊外の戸建てに住み続ける場合には、家そのものの管理も必要になります。
山形市は豪雪地帯に指定されています。
もちろん、山形市内の住宅すべてが雪によって大きな負担を抱えるわけではありません。
それでも、誰も住まなくなった家について、
「冬の間、誰が様子を見るのか」
「屋根や敷地の雪はどうするのか」
「水道などの凍結対策はどうするのか」
といった問題を考えておく必要があります。
空き家の管理が不十分になれば、建物の老朽化だけでなく、周囲への影響も心配になります。
また、2023年の空家等対策特別措置法の改正では、「管理不全空家」という仕組みが設けられました。
管理が不十分で、放置すれば特定空家になるおそれがある空き家についても、自治体による指導・勧告の対象となります。
さらに、勧告を受けた場合には、住宅用地に対する固定資産税の特例から外れる可能性があります。
つまり、
「とりあえず空き家にしておけばいい」
とは簡単に言えません。
そう考えると、依頼人が「早く動いたほうがいい」と考えるのも無理はないのです。
ただし、「早く動く」と「早く決める」は違う
「母の引っ越し先を決めて、実家の査定を何社か取って、一番高いところにお願いして……できれば短期間で全部終わらせたいんです」
と語る依頼人。
ですが、私が話すなら、
「一つだけ、分けて考えたほうがいいと思います。【早く動くこと】と、【早く決めること】です」
と言いたい。
実家終活では、この二つが一緒になってしまうことがあります。
早く売りたい。だから、早く査定を取る。
高い査定が出た。だから、その会社に決める。
解体したほうが売りやすいと言われた。だから、解体する。
一見すると、とても効率的です。
しかし、実家の場合は「後から変えられない決断」がいくつもあります。
一度壊した家は元には戻せません。処分した家財も戻ってきません。
売却して所有権を移せば、「やっぱりもう少し残しておけばよかった」と思っても簡単には戻せません。
だからこそ、早く情報を集めることと、早く結論を出すことは分けて考える必要があります。
「一番高い査定」が、一番コスパがいいとは限らない
依頼人は不動産会社を何社か比較するつもりでした。
「複数社に査定してもらって、一番高いところに頼めばいいですよね?」
これも、一見すると合理的です。
ただし、不動産の査定額は、その金額で必ず売れるという意味ではありません。
査定額はあくまで「このくらいで売れるのではないか」という予想です。
実際の売却では、買い手が見つかるまでの期間や、物件の状態、境界、道路、残置物、解体の必要性など、さまざまな要素が関係します。
たとえば、
「A社は2,000万円」
「B社は1,800万円」
「C社は1,700万円」
だったとします。
2,000万円と提示したA社が、一番お得に見えるかもしれません。
でも、A社で1,900万円まで値下げして長期間売れなかったら?
一方、B社が1,800万円で比較的早く成約でき、売却にかかった費用も少なかったら?
最終的に手元に残る金額は、単純な査定額の順番とは違ってきます。
実家終活で見るべきなのは、
「いくらで売れるか」だけではなく、「最後にいくら残るか」
です。
実家には「見えないコスト」がある
今回の依頼人は「コスト」という言葉には敏感です。
「今、お考えになっているコストって、何が入っていますか?」
「固定資産税と……管理費。それから売却にかかる費用ですかね」
しかし、実家の終活では、そこに別のコストが加わることがあります。
たとえば、家の中に残された家具や家電。
親が長年暮らした家なら、売却前に整理しなければならないものも少なくありません。
境界の確認が必要になることもあります。相続登記が済んでいるか確認する必要もあります。建物の状態によっては修繕や解体を検討することもあります。
そして、それぞれに費用だけではなく「時間」がかかります。
さらに重要なのが、税金です。
相続した空き家を売却する場合には、一定の要件を満たせば「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの3,000万円特別控除」を利用できる場合があります。
ただし、誰でも無条件に利用できる制度ではありません。
建築時期や相続の状況、売却時期、建物の扱いなど、さまざまな要件があります。
だからこそ、
「売ると決めてから調べる」
より、
「売る可能性がある段階で調べておく」
ことが大切になります。
これも「早く動く」ことのメリットです。
山形の実家だからこそ、考えておきたいこと
今回の家は、山形市南部の住宅地にある昭和期の戸建てという設定です。
駅前のような便利な場所ではありません。
だからといって「売れない家」というわけでもありません。周辺環境や土地の形、道路、駐車スペース、建物の状態などによって評価は変わります。
そして、もう一つ山形ならではの視点があります。
冬の管理です。
母親が住んでいる間は、雪のことも含めて自分たちで対応できます。
しかし、母親が引っ越した後はどうでしょう。
依頼人は遠方に住んでいます。
毎週、実家を見に行くわけにはいきません。
雪が降るたびに誰かに確認を頼むのか。
屋根や外壁に問題がないか。
水道の凍結は大丈夫か。
庭や敷地はどうするか。
「空き家にしておけばいい」という選択にも、管理する人が必要です。
つまり、
空き家は「何もしない」という選択ではありません。
何もしないことにも、維持するための時間と費用がかかります。
これは、実家終活代行でも大切にしている考え方です。
「何もしない=0円ではない」
のです。
では、お母さんの気持ちはどうする?
ここで難しくなるのが、母親の存在です。
母親は、依頼人の話を聞いていました。
「駅の近くなら病院にも行きやすいし、買い物も楽になる。雪の日も今より安心だと思う」
そう言われれば、反対しにくい。
実際、母親自身も、
「私も、いつまでもここに住めるとは思っていない」
と考えていました。
それでも、少し引っかかるものがあります。
何十年も暮らしてきた家です。
父親と過ごした時間もあります。近所には顔見知りもいます。庭の木一本にも思い出があります。
「便利なマンションに移るのだから、いいことでしょう」
と依頼人に言われても、「便利かどうか」だけでは決められない。
これは、母親が非合理的なのではありません。
実家には、金額に換算しにくいものもあるからです。
高齢者の住み替えでは、住宅の利便性だけでなく、これまでの生活や地域とのつながり、本人の希望なども考慮することが重要です。
もし、依頼人の母親に尋ねるなら、こうです。
「お母さまは、これからどんな暮らしをしたいと考えていますか?」
コスパを「お金」だけで考えない
依頼人は少し考えていました。
「母が便利な場所に移ること自体は、僕もいいと思っているんです」
「でも?」
「……僕が急ぎすぎているのかもしれません」
私は否定しません。
「急ぐ理由はあります。空き家になる前に動いたほうがいいこともあります」
そして、こう続けました。
「ただ、コスパを考えるなら、売却価格だけではなく、もう少し広く見たほうがいいと思います」
売却した場合、最終的にいくら残るのか。
売らずに5年間持ったら、どんな管理負担が生じるのか。
解体した場合、解体費を払ってまで更地にする意味があるのか。
古家を残したまま売る可能性はないのか。
母親の引っ越し費用や新居の住居費はどうなるのか。
家財を処分するために、どれだけの時間と費用が必要なのか。
そして何より、
「母親自身が、その選択に納得しているか」
お金だけを見れば「売る」が一番合理的でも、家族が納得できずに話し合いが止まれば、結果として時間もコストも増えます。
逆に、少し時間をかけて情報を整理したことで、より良い選択肢が見つかることもあります。
私が最初にしたこと
今回、私はすぐに不動産会社へ売却依頼を出しませんでした。
まず、実家の状態を確認します。
登記はどうなっているのか。土地と建物の状態はどうか。道路や境界に問題はないか。
家の中には何が残っているのか。解体した場合はいくらくらいかかるのか。古家付きで売る場合はどうか。
母親が引っ越す場合、いつまでに何を整理する必要があるのか。
そして、複数の売却方法を並べました。
「売る」「壊して売る」だけではありません。
「古家を残して売る」
「しばらく維持してから売る」
「別の使い方を検討する」
という可能性も含めて比較しました。
そこで初めて、依頼人にも実家の全体像が見えてきました。
今まで考えていたのは、
「できるだけ早く売って、損をしない」
でした。
それが、
「何を選べば、家族全体として一番損が少ないのか」
に変わっていったのです。
「早く動く。でも、急いで決めない」
依頼人が実家の売却を考えたこと自体は間違っていません。
むしろ、母親が元気なうちに住み替えを考え、空き家になる前から実家の状態を確認しておくのは、合理的な行動です。
問題は、「売る」という結論を先に決めてしまうことでした。
実家終活では、
早く動くことと、早く決めることは違います。
早く動いて、
家の状態を知る。
名義を確認する。
費用を調べる。
売却価格を比較する。
手残りを計算する。
母親の希望を聞く。
そして、選択肢を並べる。
そこまでやってから決めても、遅くはありません。
むしろ、何も分からない状態で「とにかく売ろう」と決めるより、ずっと納得できる答えに近づけます。
実家終活代行が行うのは、「売ったほうがいい」「残したほうがいい」と結論を押しつけることではありません。
今の家に何があり、どんな選択肢があり、それぞれにどんな費用とリスクがあるのか。
それを整理して、家族が判断できる状態をつくることです。
今回の依頼人も、売却をやめたわけではありません。
ただ、
「まず母の引っ越しを考える。その間に実家のことを調べる。売却するなら、いくらで売れるかだけではなく、最終的にいくら残るのかを見る」
という順番に変えました。
そして母親には、
「急いで出ていかなくてもいい。でも、これからどうしたいか、一緒に考えてみよう」
と話すことにしました。
実家終活で大切なのは、何でも早く終わらせることではありません。
早く動いて、焦らず決める。
それも一つの「コスパのいい実家終活」なのかもしれません。
実家終活代行では、「売る・残す」を決める前からご相談いただけます
「実家は売ったほうがいいのか」
「母を引っ越させたほうがいいのか」
「空き家にしたら、どのくらいお金がかかるのか」
「解体してから売るべきなのか」
「不動産会社の査定額をどう比べればいいのか」
こうしたことを、最初から一人で決める必要はありません。
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参考URL
山形市の都市計画・中心市街地
山形市「立地適正化計画」
https://www.city.yamagata-yamagata.lg.jp/machi/urban/1002271.html
山形市「第3期山形市中心市街地活性化基本計画」
https://www.city.yamagata-yamagata.lg.jp/machi/urban/1002272.html
山形市の空き家対策
山形市「山形市空き家等対策計画」
https://www.city.yamagata-yamagata.lg.jp/kurashi/sumai/akiyama/1002361.html
山形市「空き家に関する補助金・支援制度」
https://www.city.yamagata-yamagata.lg.jp/kurashi/sumai/akiyama/
空き家法
国土交通省「令和5年改正空家等対策の推進に関する特別措置法について」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000051.html
豪雪地帯
国土交通省「豪雪地帯対策の推進」
https://www.mlit.go.jp/seisakutokusei/snow/
高齢者の住まい
国土交通省「高齢者の住まいに関する現状と課題」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk7_000005.html
相続した空き家の売却に関する税制
国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
不動産取引・消費生活相談
国民生活センター
https://www.kokusen.go.jp/
不動産取引に関する情報
公益財団法人 不動産流通推進センター
https://www.retpc.jp/