今回ご紹介するのは、名古屋市内にある大きな実家をめぐる相談事例です。

ご相談者は、長年、伝統芸能の師範として活動してきた女性。高齢になり、父親を亡くしたことをきっかけに、住み慣れた家を離れることを決めました。

実家は、昔ながらの広い日本家屋。父親が暮らしていた家であると同時に、彼女が弟子たちに稽古をつけてきた場所でもあります。

名古屋市内の住宅地にあり、敷地にもゆとりがあります。しかし、建物は古く、維持管理には手間も費用もかかります。

「これからの生活を考えると、家を売って、老後の資金にしたいんです」

ご本人の考えは、はっきりしていました。

ところが、話はそう簡単には進みませんでした。

「売るのはもったいない」と、周囲から次々に意見が出る

最初に意見を出したのは、妹夫婦でした。

「古い家でも、リフォームすれば価値が上がるんじゃない?」

「一社だけで決めないで、もっと不動産会社に相談したほうがいい」

「いっそのこと、建物を壊して土地として売ったら?」

どれも、一見するともっともらしい意見です。

一方で、長年の弟子たちからは、別の声が上がりました。

「先生が稽古をしていた場所を、なくしてしまうのは寂しい」

「地域の人が集まれる場所として残せないでしょうか」

「文化活動に使えるなら、私たちも協力したい」

家を売って生活資金にしたい本人。家の価値を高めてから売るべきだと考える妹夫婦。稽古場を残したい弟子たち。

それぞれに、言い分があります。

しかし、話し合いを重ねるほど、選択肢ばかりが増えていきました。

私は、こうした相談でよくお伝えすることがあります。

選択肢が多いことと、決めやすいことは、同じではありません。

大切なのは、誰かの意見をすぐに採用することではなく、その案が本当に実行できるのか、費用はいくらかかるのか、そして、誰がその後を担うのかを確かめることです。

名古屋の住宅地にある家。まず確認したいのは「土地と建物の条件」

名古屋市内といっても、住宅の条件は一様ではありません。

地下鉄や駅へのアクセス、周辺の住宅環境、道路との接し方、敷地の形、建物の状態。こうした条件によって、売却や活用の可能性は変わります。

たとえば、古い建物を残したまま売る方法と、解体して更地にしてから売る方法では、買い手の想定も、売却までに必要な費用も異なります。

ただし、「古いから壊す」「土地が広いから高く売れる」と、すぐに結論を出すことはできません。

建物の状態だけでなく、接道や境界、権利関係なども確認する必要があります。

名古屋市では、空き家に関する情報や相談先を案内しています。まずは市の公式情報から、空き家に関する制度や相談窓口を確認しておくとよいでしょう。

名古屋市公式サイト:空き家に関する情報
https://www.city.nagoya.jp/kurashi/category/15-14-8-0-0-0-0-0-0-0.html

また、名古屋市の住宅・まちづくりに関する情報も、物件の状況を整理する際の入口になります。

名古屋市公式サイト:住宅・まちづくり
https://www.city.nagoya.jp/jutakutoshi/

市の制度が利用できるかどうかは、建物の状態や所在地、事業の目的、募集時期などによって異なります。制度名だけを見て「うちも対象だ」と判断せず、個別の要件を確認することが大切です。

リフォームすれば、売却価格は上がるのか

妹夫婦が強く勧めていたのは、リフォームでした。

「せっかく立派な家なんだから、きれいにすれば高く売れるはず」

たしかに、手入れされた建物には魅力があります。しかし、リフォームにかけた費用が、そのまま売却価格に上乗せされるとは限りません。

買主が求めているのは、必ずしも新しく整った家とは限らないからです。自分好みに改修したい人もいれば、建物を使わず土地として検討する人もいます。

また、賃貸物件として活用する場合には、改修費だけでなく、入居者募集、維持管理、修繕、空室期間なども考えなければなりません。

「リフォームして貸せば、家賃が入る」という話だけでは、判断材料として十分ではないのです。

私は、まず複数の案について、初期費用と将来の収支を並べてみることを提案しました。

  • 現状のまま売却する
  • 古家付き土地として売却する
  • 建物を解体して売却する
  • 改修して賃貸に出す
  • 稽古場など、用途を限定して活用する

この段階で、どれか一つに決める必要はありません。

大切なのは、「売れる金額」だけでなく、費用を差し引いて、最終的にいくら残るのかを比較することです。

解体する前に、固定資産税と土地の条件を確認する

「建物が古いなら、壊して更地にしたほうが売りやすい」

これも、よく聞く意見です。

しかし、解体にはまとまった費用がかかります。さらに、住宅が建っている土地には、固定資産税などについて住宅用地の特例が適用されている場合があります。

住宅を取り壊すと、土地の状況によっては、こうした特例の適用に影響する可能性があります。

そのため、解体費用だけでなく、解体後の税負担や売却までの期間も含めて考える必要があります。

固定資産税の住宅用地の特例については、自治体の税務担当窓口などで、対象となる土地の状況を確認してください。

また、空き家を放置してよいという意味でもありません。管理が不十分な空き家については、法令に基づく措置や、住宅用地の特例に影響する場合があります。

空き家の管理については、国土交通省の案内も参考になります。

国土交通省:空き家対策に関する情報
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000035.html

解体するか、残すか。どちらが正解かは、建物と土地の条件、売却の見通し、管理にかかる費用を確認してから考えるべきです。

「稽古場を残したい」という気持ちは、どう扱えばいいのか

今回の相談で、私が特に気になったのは、弟子たちの思いでした。

長年使われてきた稽古場には、建物の価格だけでは測れない価値があるのかもしれません。

しかし、残したいという気持ちがあることと、実際に残せることは別です。

建物を維持するには、修繕費や光熱費、保険、日常の管理などが必要です。誰が鍵を管理し、誰が掃除をし、利用者の安全を確保するのか。活動を続けるなら、運営の責任者や費用の負担方法も決めなければなりません。

「みんなで使えばいい」という言葉だけでは、継続的な運営は難しいことがあります。

そこで私は、弟子たちに、まず具体的な利用イメージを整理してもらうことにしました。

どのくらいの頻度で使うのか。利用する人数は何人か。利用料を負担できるのか。修繕や管理に協力できるのか。

そのうえで、建物の状態や法的な条件を専門家に確認し、実現可能性を検討します。

文化活動や地域利用を考える場合も、まずは名古屋市の公式情報を確認し、該当する制度や相談窓口があるかを問い合わせることが必要です。

制度は、建物を残したいという希望だけで利用できるものではありません。対象となる事業や団体、施設の条件などを確認しなければなりません。

相続や名義の問題は、後回しにしない

家の活用方法を考えるとき、もう一つ確認しておきたいのが、土地と建物の名義です。

今回の事例では、父親が亡くなった後の相続関係を確認する必要がありました。

相続した不動産については、相続登記が必要となる場合があります。相続人が複数いる場合には、誰が所有者となるのか、売却や活用について誰の同意が必要なのかも整理しなければなりません。

「家族だから、話せば何とかなる」と考えていても、名義や権利関係が整理されていなければ、手続きを進められないことがあります。

相続登記については、法務省の公式案内を確認できます。

法務省:相続登記の申請義務化について
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html

また、相続した空き家を売却する場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得の特別控除の対象となることがあります。ただし、適用には期限や対象となる家屋・相続の条件などがあり、すべての相続不動産に適用されるわけではありません。

国税庁:相続した空き家を売ったときの特例
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm

売却を考え始めた段階で、税務上の特例が使えるかどうかを確認しておくことも、手取り額を考えるうえで重要です。

インターネットの情報を、家族の結論にしない

妹夫婦は、インターネットで見つけた情報を次々に持ち込みました。

「この方法なら高く売れるらしい」

「こういう家は、リフォームすれば必ず需要がある」

「補助金が使えるはずだ」

情報を集めること自体は悪いことではありません。

ただし、ネット上の体験談や広告、制度の紹介記事には、個別の条件が省略されていることもあります。ある地域で成立した方法が、名古屋市内のこの家でも成立するとは限りません。

特に、リフォームや不動産活用を勧める事業者に相談する場合は、費用の内訳、契約条件、解約条件、将来の収支見込みなどを確認したいところです。

消費者庁も、住宅リフォームなどの契約に関する注意喚起を行っています。契約を急がされたときや、説明に不明点があるときは、その場で決めず、情報を持ち帰って確認しましょう。

消費者庁:消費者への注意喚起
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/caution/

「専門家が言っているから」「家族が勧めるから」と、そのまま決める必要はありません。提案の根拠と、自分の家に当てはまる条件を確認することが大切です。

私が最初に行ったのは、結論を出すことではありません

この相談で、私が最初に行ったのは、売却先を探すことでも、リフォーム業者を紹介することでもありませんでした。

まず、家の現状を整理しました。

土地と建物の名義はどうなっているか。相続関係は整理されているか。建物はどの程度傷んでいるか。道路や境界に問題はないか。家の中には、どのくらいの荷物が残っているか。

そのうえで、ご本人が何を望んでいるのかを確認しました。

老後の資金を確保したいのか。できるだけ早く手放したいのか。それとも、条件が整うなら稽古場として残す可能性も検討したいのか。

ここを曖昧にしたままでは、家族や周囲の意見に振り回されてしまいます。

次に、現状のまま売る場合、解体して売る場合、改修して活用する場合など、複数の選択肢を並べ、それぞれの費用、手間、リスク、実現までの時間を比較します。

必要に応じて、不動産会社、司法書士、税理士、建築関係者など、各分野の専門家につなぎます。

私自身がすべての工事や手続きを行うわけではありません。

何を、どの順番で、誰に相談すればよいのか。家族の話し合いも含めて、実行できる道筋をつくること。それが、私の役割です。

実家のことは、すぐに答えを出さなくてもいい

今回の女性にとって、実家は単なる不動産ではありませんでした。

父親と暮らした場所であり、自分が長年、弟子たちと向き合ってきた場所でもあります。

だからこそ、売ることにも、残すことにも、迷いが生まれます。

一方で、これからの生活を守るためには、いつまでも決められないままにしておくわけにもいきません。

私は、最初から「売りましょう」「残しましょう」と結論を押しつけることはしません。

まずは、今の状態を知ること。できることと、難しいことを分けること。そして、ご本人が大切にしたいことを確認しながら、現実的な選択肢を整理することです。

名古屋市内の大きな家であっても、古い家であっても、選択肢は一つとは限りません。

ただし、どの方法にも費用や条件があり、必ず希望どおりに進むとは限りません。だからこそ、思い込みや周囲の意見だけで決めず、一次情報や専門家の確認をもとに判断することが大切です。

実家のことを、まだ家族で話し合えていない。何から手をつければいいのか分からない。売るか残すかも決まっていない。

その段階でも、相談はできます。

決めてから相談するのではなく、決めるために、現状を整理する。

実家終活は、そこから始めてもいいのです。

参考・関連情報