「小さいながらも、庭のある家なんです」

京都にあるご実家を相続した40代の女性は、そう話していました。

土地付きの民家。戦後に建てられた家なので、歴史ある京都の街では「まだ新しい」「新参者」と言われることもあるそうです。

とはいえ、しっかりした造りの平屋に2階部分を備えた家で、庭もあります。

以前はお父さまが暮らし、お父さまが亡くなってからは、お母さまが一人で住んでいました。

そのお母さまも高齢になり、ご病気もあって施設へ。相続を引き継いだ女性自身は別の場所で一人暮らしをしているため、実家に住む予定はありません。

それでも、空き家になった家を放っておくことはできません。

自宅から実家までは片道40分。定期的に通って庭の手入れをし、家の中の片付けも少しずつ進め、ようやく「あらかた片付いた」ところまで来ました。

そこで、女性は実家を売ることを決めました。

ところが、最後になって気になったのが、

「池」と「鯉」、そして「井戸」でした。

■「鯉をどうするの?」から始まった実家終活

庭には小さな池があり、何匹かの鯉が泳いでいます。

女性にとっては、子どもの頃から見てきた鯉です。

「家を売るなら、この鯉たちはどうなるんでしょう?」

不動産会社に相談する前から、そのことが気になっていました。

池を壊すなら、鯉をどこかへ移さなければいけません。

かといって、自分で飼えるわけでもありません。

「まさか殺してしまうことになるんでしょうか」

そう思うと、売却そのものをためらってしまいます。

しかし、池の鯉をそのまま川や公園の池などに放せばよい、という話でもありません。

飼育している観賞魚については、自然環境への放流を避け、引き取りや譲渡など適切な方法を探すことが大切です。

錦鯉などであれば、専門業者や観賞魚関係の事業者、個人への譲渡など、引き取り先を探せる場合があります。

Q&A 庭の鯉は、家を売るなら「処分」するしかない?

A. 必ずしもそうではありません。

池を撤去する場合でも、先に鯉の引き取り先を探すという方法があります。

専門業者などに相談して、飼育を続けてもらえる人や場所へ譲渡できないか確認してみましょう。

「池があるから売れない」のではなく、

池をどうするか、鯉をどうするかを先に整理する。

それだけでも、売却に向けた選択肢が見えてきます。

なお、鯉を近くの川や池へ放せばよい、という考え方は避けた方がよいでしょう。

環境省も外来生物対策や生態系保全の観点から、生き物を安易に自然環境へ放すことについて注意を促しています。

参考:環境省「日本の外来種対策」
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/seisaku/exotic/

■次に出てきた「井戸」の問題

池のことを考えていると、女性はもう一つ気になるものを思い出しました。

庭の隅にある、使っていない井戸です。

「これも、売る前に何とかしないといけないですよね?」

さらに友人からは、

「井戸を埋めるなら、お祓いをした方がいいよ」

「水神様がいるから、ちゃんと井戸封じをしないと」

「何もしないで埋めると良くないらしいよ」

といった話も聞かされていました。

女性自身は、そこまで気にしていません。

ところが、友人はスピリチュアルなことに詳しく、

「水の気が悪い土地は、買う人も嫌がる」

「池と井戸がある家は売りにくい」

と強く言います。

ついには占い師への相談までセッティングされてしまいました。

「私は、ただ家を売ってお金にできればいいんですけど……」

女性は、少し困った顔をしていました。

ここで大切なのは、

法律上の問題と、風習や個人の考え方を一緒にしないことです。

■井戸を埋めるのに「お祓い」は必要?

結論から言えば、一般住宅にある井戸を埋める際に、法律や行政のルールとして「お祓いをしなければならない」と定められているわけではありません。

一方で、井戸を埋める際に、水への感謝や工事の安全を願って、お祓いや井戸封じを行うという風習はあります。

これは、法律上の手続きというより、宗教的・民俗的な習慣や、家族自身が気持ちの区切りをつけるためのものと考えた方がよいでしょう。

つまり、

「必ずやらなければならない」ものではない。

でも、

「やってはいけない」ものでもない。

ということです。

気持ちの問題として、お祓いをしてから井戸を閉じたいという家族がいても不思議ではありません。

逆に、特に信仰上の理由がなく、工事上必要な対応だけをしたいという人もいるでしょう。

どちらを選ぶかは、その家の事情によって決めればよいのです。

Q&A お祓いをしないと、家は売れない?

A. そのような法律上の決まりはありません。

「お祓いをしていないから売れない」「水神様に失礼だから売却できない」といったルールが不動産取引にあるわけではありません。

ただし、売主本人や家族が「お祓いをしておいた方が安心」と感じるなら、心の区切りとして行うことは選択肢の一つです。

大切なのは、

風習を法律上の義務のように考えないこと。

そして、逆に風習を大切にしたい人の気持ちを「迷信だから」と簡単に切り捨てないことです。

京都の歴史や暮らしと井戸・地下水との関わりについては、京都府立京都学・歴彩館などでも歴史・生活文化に関する資料が公開されています。

参考:京都府立京都学・歴彩館
https://www.pref.kyoto.jp/rekisaikan/

■では、井戸はどうやって埋めればいい?

ここは「お祓い」とは別の問題です。

一般的な個人住宅の浅井戸について、埋め戻しそのものに特別な行政許可が必要となるケースは原則としてありません。

ただし、だからといって、

「土を上から入れて埋めれば終わり」

というわけではありません。

井戸の状態や周辺の地盤、今後その土地をどのように利用するのかによって、適切な方法を検討する必要があります。

また、井戸水を利用していた場合には、水道・下水道の使用状況などによって別途確認が必要になる場合があります。

京都市では地下水の保全に関する取り組みも行われています。

参考:京都市「地下水保全の取組」
https://www.city.kyoto.lg.jp/kankyo/page/0000000213.html

Q&A 井戸は埋めてから売った方がいい?

A. 必ずしも「埋めてから売る」と決まっているわけではありません。

井戸を残したまま売る方法もあります。

一方で、建物を解体して更地にする場合や、買主が新たに建築することを想定する場合には、井戸の存在や状態が問題になることもあります。

重要なのは、

「井戸があるからダメ」ではなく、「その井戸が土地の利用にどう関係するのか」を確認することです。

もし埋め戻すのであれば、工事の内容や施工状況が分かる写真・記録などを残しておくことも考えられます。


■実は「井戸そのもの」より気をつけたいこと

井戸については、少し気になる裁判例があります。

過去には、土地を購入した後に地中から古井戸が見つかり、その処理や地盤改良などをめぐって売主側の責任が問題になった裁判例があります。

東京地方裁判所の平成21年2月6日判決として、平成20年(ワ)第17551号の事件が確認されています。

この事件は、現在の民法でいう「契約不適合責任」と全く同じ制度の時代の判決ではありません。

したがって、

「井戸がある土地は必ず損害賠償になる」

という意味ではありません。

重要なのは、

売る側が把握している土地の状態を、買主に適切に伝えること。

そして、

過去に井戸があったこと、埋め戻したことなど、後から問題になり得る情報を整理しておくこと。

です。

「井戸があること」自体より、

何も説明せず、何も記録せず、後から発見される。

という状態の方が、トラブルにつながる可能性があります。

■「水の気が悪いから売れない」は本当?

ここで、女性が一番困っていた話に戻ります。

「池がある」

「井戸がある」

「水の気が悪い」

「だから売れない」

本当にそうなのでしょうか。

少なくとも、不動産の公的な評価制度や法律上、

「水の気が悪いから土地の価値が下がる」

という仕組みがあるわけではありません。

風水や家相を気にすること自体は、その人の価値観です。

買主が「池はない方がいい」と考えたり、「井戸があるのは気になる」と判断したりすることもあるでしょう。

しかし、それは、

不動産そのものに「売れない」という法的な属性が付くこととは別の話です。

Q&A 風水を気にする買主がいたら、値段は下がる?

A. 買主個人の考え方によっては、購入を見送ったり、条件を気にしたりする可能性はあります。

ただし、「風水的に悪いから公的な不動産評価が下がる」ということではありません。

だからこそ、

「風水が気になる人がいるかもしれない」

という可能性だけで、最初から物件を諦める必要はありません。

むしろ、

・井戸は残っているのか
・埋め戻したのか
・池はどうするのか
・鯉はどうするのか
・建物は使えるのか
・庭を残す価値があるのか
・更地にした場合はいくらかかるのか

という、現実的な情報を一つずつ整理することが大切です。

■「更地にした方が高く売れる」とは限らない

女性は、もう一つ悩んでいました。

「家も庭も全部壊して、更地にした方がいいんでしょうか?」

これも、最初から答えを決める必要はありません。

土地の形、道路との接し方、周辺環境、面積、建築のしやすさ、建物の状態、解体費、庭や池の撤去費などを総合的に見なければ、

「更地にした方が得なのか」

は分からないからです。

例えば、しっかりした建物を活用したい買主がいるかもしれません。

庭を魅力と感じる人もいるかもしれません。

反対に、建物や庭を撤去して新しく利用したい買主もいるでしょう。

京都市には、空き家の活用や地域利用について相談できる制度もあります。

参考:京都市「空き家等地域利用ポータル」
https://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/page/0000216164.html

Q&A 庭や池は、売る前に全部撤去した方がいい?

A. 必ずしもそうではありません。

「撤去してから売る」

「現況のまま売る」

「建物を活用できる人を探す」

など、複数の方法があります。

大切なのは、撤去費用を先にかけてしまうことではなく、

撤去した場合と、残した場合の両方を比較すること。

特に実家終活では、

「きれいにしてから売らなければ」

という気持ちが先行しがちです。

しかし、何十万円、場合によってはそれ以上のお金をかけてから、

「実はそこまで撤去する必要がなかった」

となっては、もったいありません。

■「何もしない」という選択にも、お金がかかる

今回の女性は、

「できれば、売ってお金にしたい」

と考えています。

これは、とても自然なことです。

相続した家だからといって、必ずしも思い出を残さなければならないわけではありません。

一方で、空き家にしたまま時間が経てば、

・固定資産税などの維持費
・庭の手入れ
・建物の劣化
・設備の故障
・防犯上の問題
・交通費
・自分の時間

などが積み重なります。

特に今回のように、片道40分かけて定期的に通っているなら、すでに女性自身が負担しているものがあります。

「まだ何もしていないから、お金はかかっていない」

とは限りません。

何もしない=0円ではない。

これも、実家終活を考えるときの大切な視点です。

■池、鯉、井戸。それぞれを別の問題として考える

今回の実家を整理すると、

「池があるから困っている」

ように見えます。

でも実際には、いくつもの問題が重なっています。

鯉はどうする?

→ 引き取り先や譲渡先を探す。

池は残す?壊す?

→ 撤去費用と売却方法を比較する。

井戸はどうする?

→ 現状を確認し、残す・埋めるなどを検討する。

お祓いは?

→ 法律上の義務ではなく、家族の気持ちとして判断する。

風水は?

→ 公的な不動産評価のルールではない。ただし、買主の価値観として気にする可能性はある。

家は壊す?

→ 建物の状態や土地の条件、買い手の需要を見て判断する。

こうして分けてみると、

「何だか怖い実家」

だったものが、

「いくつかの確認事項がある実家」

に変わってきます。

■実家終活は「売る・壊す」を決めるところから始めなくてもいい

実家終活で最初に必要なのは、

「売ります」

「解体します」

と決めることではありません。

まず、

今、この家には何があるのか。

それを整理することです。

建物は使えるのか。

土地にはどんな特徴があるのか。

池はどの程度の大きさなのか。

鯉は何匹いるのか。

井戸は現在も使われているのか。

過去に埋め戻した記録はあるのか。

庭を残した場合、どんな価値が考えられるのか。

撤去した場合には、いくらくらいかかるのか。

そして、

その家を「誰にとって、どんな使い方ができるのか」。

ここまで整理して、初めて、

「そのまま売る」

「一部を撤去して売る」

「更地にして売る」

「別の活用方法を探す」

といった選択肢を比較できます。

今回の女性に必要だったのも、最初から「池を壊すべきか」という答えではありませんでした。

池、鯉、井戸、建物、土地。

一つずつ整理して、

一番お金が残る可能性のある方法はどれなのか。

そこを考えることでした。

■京都の実家に「池」「井戸」があっても、まずは慌てない

京都の暮らしと水には、長い歴史があります。

京都盆地の地下水は、昔から生活だけでなく、酒造や伝統産業などとも関わってきました。

だからこそ、古い家に残る井戸や庭の池に、単なる設備以上の意味を感じる人がいるのも不思議ではありません。

一方で、

「井戸があるから祟られる」

「水の気が悪いから売れない」

「池がある家は買い手がつかない」

といった話を、そのまま不動産の事実として受け取る必要もありません。

大切なのは、怖い話に振り回されることではなく、

現実に何が問題なのかを確認すること。

そして、必要なら専門家や業者に確認しながら、一つずつ解決していくことです。

■「池がある実家、どうすればいい?」からでも相談できます

実家終活では、

「売るかどうかも決まっていない」

「池の鯉をどうすればいいか分からない」

「井戸は埋めた方がいいの?」

「庭を壊すのにいくらかかる?」

「更地にした方が高く売れる?」

という段階で相談しても構いません。

むしろ、何も決まっていない段階だからこそ、先に整理しておいた方がよいことがあります。

実家終活代行では、いきなり「売りましょう」「解体しましょう」と決めるのではなく、

今の実家の状態を確認し、考えられる選択肢を並べ、それぞれの費用やリスクを比較すること

から始めます。

「何が正解なのか分からない」というところからでも大丈夫です。

ご実家総合診断書

「売れるかどうか」だけを見るのではなく、

土地・建物・環境・市場性・法務・難易度・親族感情面・税務資金面

の8つの視点から、実家の状態を整理します。

「売る」「残す」「活用する」「手放す」など、複数の選択肢を比較しながら、最終的にどの方法が現実的なのかを考えていきます。

池があるからどうしよう。

鯉をどうすればいいか分からない。

井戸を埋めるべきか迷っている。

そんな状態でも構いません。

まだ何も決まっていない段階から、一緒に整理することができます。

実家じまいについて、もっと詳しく知りたい方へ

実家じまいには、片付け、相続、売却、解体、税金など、さまざまな問題が関わります。特に、田舎の売れない実家や、遠方にある空き家は、何から手をつければよいのか分からず、先延ばしになりがちです。

 実家じまいの進め方や費用について、以下の2つの完全ガイドで詳しく解説しています。

【実家じまい完全ガイド】
実家の片付けから売却・処分まで、具体的な手順と選択肢をまとめました。  
https://zikkazimai.jp/column/zikkazimai-guide/

【実家じまいのお金と税金・完全ガイド】
相続、売却、解体にかかる費用や、知っておきたい税金の制度・特例を解説しています。  
https://zikkazimai.jp/column/zikkazimai-money-tax/

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